すると、「シータ波の上り坂のタイミング(位相1)」で新生ニューロンを止めたときに限り、記憶の固定が妨げられることが分かったのです。
他のタイミングで止めても、記憶は影響を受けませんでした。
つまり、新生ニューロンが脳の中で「正しいタイミング」で活動することが、記憶を脳に定着させるために不可欠であることが示されました。
これはまるで、音楽の演奏でリズムに正しく合わせることが美しい演奏に欠かせないようなものです。
こうして、研究チームは少数の新生ニューロンが記憶を整理し、定着させるための非常に重要な役割を担っていることを、明確に実証したのです。
記憶の固定化と想起は別の仕事

私たちは、普段何気なく眠っていますが、実は眠りの間に脳の中でさまざまな大切な作業が行われています。
特に重要なのが、「記憶の整理」です。
記憶を整理するとは、昼間に学んだことや体験したことを脳に定着させ、後から思い出せるようにするということです。
今回の研究は、「睡眠中に脳はどのように記憶を整理しているのか」という謎に対して、具体的な答えを示しました。
これまでの研究で、記憶を整理する睡眠の仕組みにおいて「レム睡眠」という睡眠が重要であることは知られていました。
レム睡眠は夢を見る睡眠とも呼ばれ、この間、脳ではさまざまな情報処理が行われています。
特に、このレム睡眠中に脳の中の「海馬」と呼ばれる部分で、「シータ波」という規則的なリズムの脳波が現れることもよく知られていました。
しかし、なぜシータ波が記憶の定着に重要なのか、その具体的な仕組みまではわかっていませんでした。
そのため、記憶とシータ波をつなぐ明確な「証拠」が必要でした。
そこで今回の研究チームが注目したのが、「新生ニューロン」と呼ばれる若い細胞の存在でした。
実験によって、海馬の中にあるほんの数個の新生ニューロンが、レム睡眠中にシータ波のリズムに合わせて再び活動し、それが記憶の固定に必要であるということが初めて明確に証明されました。