するとその結果は、毎回大きくばらつくことが明らかになりました。
平均して与えた熱の約9%が仕事に変わる(=効率9%)という結果ですが、1回ごとに見れば「効率がマイナス」になったり、「100%を大きく超える」ことすら頻繁に見られました。
効率がマイナスになるとは、エンジンが一瞬「冷蔵庫」として働いてしまい、熱が逆向きに流れる現象です。
逆に100%超とは、受け取った熱以上の仕事が出るという“物理法則に逆らった”ような振る舞いです。
さらに特筆すべきは、粒子がいる「空間の位置」によって感じる温度が異なる、つまり位置依存温度という特殊な状況が発生することです。
普通はお風呂の温度はどこでも同じですが、この場合は「ある場所は灼熱、別の場所は涼しい」といった極端なムラが生まれます。
こうした環境のもとで、粒子の運動やエネルギーのやりとりは非常に複雑になります。
研究チームは、この「温度のムラ」と「大きなゆらぎ」を正しく説明するために、新しい理論モデルを開発しました。
このモデルは粒子の動きや効率のばらつきを高い精度で再現し、実験データとよく一致することが示されました。
今回の成果は、「平均値」や「おおまかな傾向」だけでは語れない、ミクロな世界特有の偶然やゆらぎの重要性を実験と理論の両方で明らかにしたものです。
これは熱力学の根本的な理解を深めるだけでなく、生体分子のエネルギーやナノマシン設計にも新しいヒントを与えると期待されています。
なぜ奇跡には1000万℃が必要だったのか?

今回の研究で最も大きな意義は、普段私たちが当たり前だと思っている熱の法則が、ミクロな世界ではほんの一瞬、破られるように見えることを実際の実験で明らかにしたことです。
「熱は高い温度から低い温度へ必ず流れる」というルールは、熱力学第二法則というとても重要な原理として知られています。