また、この研究は、ただ単に「珍しい現象」を見つけたというだけでなく、極小サイズのエンジンを実際にコントロールする技術を大きく進歩させた点でも重要です。
特に今回の実験で使われたように、電気の力を使って粒子を浮かせ、超高温の環境を自由に作り出せる装置(プラットフォーム)は、他にはない新しい技術です。
こうした技術が進歩すると、生き物の細胞の中で起こるエネルギーの動きを実験室で再現することが可能になります。
具体的には、生物の細胞内では「タンパク質が正しく形を作る(折りたたまれる)とき」や、「細胞の中で物質が運ばれるとき」などに、小さなエネルギーのむら(偏り)が重要な役割を果たしています。
今回作られた、場所ごとに温度が違うという特殊な実験環境は、まさにこうした細胞内の微妙な温度やエネルギーの偏りを詳しく調べるための理想的な仕組みとなります。
これを利用することで、生物物理学やナノテクノロジー(原子や分子レベルで物を動かす極小の技術)に役立つ新たな知識や発見が得られるでしょう。
このように、私たちが普段経験している「普通の世界」の法則も、小さな世界(ミクロな世界)にまで小さくすると、必ずしも常に当てはまるとは限らず、むしろ「確率や偶然が支配する不思議な世界」に変化することがあるのです。
今回の実験が明らかにしたミクロ世界のエンジンの動きは、そんな物理法則の奥深さと面白さを私たちに示してくれました。
この結果は、将来的にナノテクノロジーを発展させるうえで、とても重要なヒントになります。
具体的には、ミクロの世界特有の偶然のゆらぎをうまく利用することで、従来よりも効率的で柔軟な、極めて小さな機械(ナノマシン)の設計や開発に役立つ可能性があります。
もちろんこれは、「理論上の効率の限界を超える」という意味ではなく、あくまで極小の世界に特有なゆらぎや動きをうまくコントロールして、効率をより高めることができる、という意味での可能性です。