実際、オープンアクセス誌が増えるのと同じスピードで、あやしい雑誌――つまり本来の目的をゆがめて、「掲載料だけを集めようとする」雑誌も急増してしまったのです。

こうした雑誌は、メールやウェブサイトなどを通じて「すぐに掲載しますよ」と研究者に近づき、時には数万円から十数万円といった高額な掲載料を請求します。

一方で、本来とても大切な「査読」(専門家が論文の内容を詳しくチェックする仕組み)は名ばかりで、形だけの簡単な確認だけで済ませてしまう例が後を絶ちません。

このような悪質な雑誌は「略奪的ジャーナル」や「ハゲタカジャーナル」と呼ばれています。

研究者の世界では「成果を出さなければ評価されない」というプレッシャーが年々高まっています。

とくに大学院生や若い研究者は、論文の発表歴がキャリアの出発点になるため、時には少しでも早く論文を“どこか”に出したいと焦ってしまうこともあります。

略奪的ジャーナルは、こうした研究者たちの弱みに巧みに付け込みます。

特に、アジアやアフリカなどの新興国では、大学や研究機関のサポートが十分でない場合も多く、経験の浅い研究者や研究費に余裕のない人たちが狙われやすいことも世界中の調査で明らかになってきました。

略奪的ジャーナルの存在は、学術の健全性を根本から揺るがす問題です。

なぜなら、質のチェックがされていない論文が増えれば増えるほど、本当に信頼できる研究成果と、そうでないものがごちゃ混ぜになってしまうからです。

たとえば、医療や気候変動など、私たちの暮らしや社会の判断に関わる分野で“質の悪い論文”が参考にされてしまえば、間違った治療法や政策が広まる危険もあります。

科学の世界で「みんなが信じる根拠」となる論文の質が保証されないまま膨れ上がってしまうと、長い時間をかけて築き上げてきた“科学の信用”そのものが崩れかねません。

こうした問題を解決するために、世界の学術界はさまざまな方法を試してきました。