ここでは、「社会的離脱理論とは裏腹に、年をとるほど社会的活動の重要性が増す」(フリードマン、1993=1995:84)という視点も可能であり、就業の有無に関わらずに、高齢者個人のライフスタイルの多様性もまた広がってきたとしておこう。

おもちゃドクターの事例研究

私が事例研究に選んだのは高齢者の「おもちゃドクター」活動であった。これは月に1回か2回の頻度で、家庭に放置されている壊れたおもちゃをほぼ無償で修理するサービスを指している。会員は北海道から九州まで「おもちゃ病院協会」として組織化されていて、公民館、市民活動センター、デパートのイベントなどを借りての活動である。箇条書きにしてその特徴を整理しておこう。

(出典) 金子、2014:196.

対象が子どもと母親であるから、三世代交流になる。 壊れたおもちゃの修理という成果を、目に見える形で実践できる。 修理できたという自分だけの達成感が味わえる。 無料もしくは格安の料金で修理されたおもちゃに、子どもが喜び、母親が感謝するという二重の元気の素を直接味わえる。 自己資金の持ち出し覚悟の本格的ボランティア活動になっている。 廃棄寸前のラジカセなどを手に入れて、それを分解して、修理の小道具である各種のネジやニクロム線を用意するので、廃物利用という「エコ」になる。 これら小道具の調達をめぐり、シニア同士による情報交換コミュニケーションが増える。 おもちゃドクター希望者がまとまれば、無料の講習会を現地で開き、仲間を増やせる。

複数の学生の卒論テーマになった

このような内容を北大の講義やゼミで話したら、それに関心を持ち、しっかり調査して卒業論文を書き上げた学生も数名いた。

私も本書の第4章で「高齢者の生きがいと社会参加」を論じたので、札幌市、東京都、佐賀県鳥栖市などいくつかの「おもちゃ病院」活動を調査して、その結果をまとめているので参照していただければ幸いである。