はじめに
北海道・釧路湿原のすぐそばで、大規模なメガソーラー建設が進められている。開発面積は約27ヘクタール、出力は21メガワット規模。すでに伐採・造成工事が始まり、国立公園・ラムサール条約湿地の隣にパネル群が並ぶ計画である。
この計画をめぐって、地元住民や環境団体が反対の声を上げている。背景には「自然保護」と「再生可能エネルギー推進」という二つの価値観の衝突がある。果たして、釧路湿原にメガソーラーは本当に必要なのだろうか。

釧路湿原国立公園の細岡展望台CHENG FENG CHIANG/iStock
経済性の問題
まず経済性を見てみよう。発電所の規模から試算すると、年間発電量は約2万4千MWh、これはおよそ6,000世帯分の電力に相当する。CO₂削減効果は年間約1.3万トンと見積もられる。
一見すると効果がありそうだが、発電コストを考えると課題が見えてくる。試算された発電原価(LCOE)は15〜18円/kWhで、電力市場(JEPX)の平均価格12円/kWh前後を上回っている。つまり、市場競争力は乏しいため、採算性は固定価格買取(FIT)やFIP制度(市場価格+プレミアム)といった制度的支援、つまり国民負担に依存せざるを得ないのである。
この事業は「市場で競争力があるから」ではなく、「国民負担に基づく再エネ賦課金頼み」で進められている。
再エネ導入は国の目標に沿うものだが、「高コストで、国民が負担する再エネ」が釧路湿原にふさわしいのか、冷静に考える必要がある。
環境リスク:世界的自然資産の隣で
次に環境への影響だ。釧路湿原は世界的に希少な湿地であり、ラムサール条約で保全対象とされている。そのすぐ隣での大規模造成は、取り返しのつかない損失をもたらす恐れがある。
現地では国の天然記念物オジロワシの営巣が確認され、タンチョウをはじめとする湿原性の鳥類への影響も懸念される。伐採と造成によって泥炭地が乾燥し、水の流れが変われば湿原の生態系そのものに打撃を与えかねない。