また後帯状皮質で行われる意思決定の仕組みは、単なる神経回路の「オン・オフ」といった単純なものではなく、多数のニューロンが含まれる複雑な神経ネットワークの働きによって行われることも判明しました。
ただ、たとえば左右の選択を行うときなど、これら複雑な神経ネットワークを構成するニューロンが、どのように繋がっており、どのように発火したら「意思」の「決定」となるかは謎でした。
(※理論研究などでは、意思決定の仕組を予測するいくつもの仮説が提案されてきましたが、実際に確かめられてはいませんでした)
そこで今回、ハーバード大学の研究者たちは、T字路を進むマウスが意思決定をするときの脳活動を詳細に調べ、神経ネットワークの動きを調べることにしました。
つまり、意思決定の「基礎的ルール」を探索するわけです。
意思決定の「基礎的ルール」を特定する
意思決定の「基礎的ルール」はどんなものなのか?
先に述べたように、この基礎的ルールというものが、ネットワーク全体の活性化や不活性化といった、単純なON・OFFの仕組みでないことがわかっています。
そのため仕組みを解明するには、マウスたちの神経ネットワークを構成する全てのニューロンと全ての接続を知る必要があります。
調査にあたってはまず、マウスの後帯状皮質に対して、強く活動するニューロンほど強く光るような仕組み「2光子カルシウムイメージング法」を導入しました。
(※2光子カルシウムイメージングでは細胞の活動の強さにともなって強く蛍光を発する、カルシウムセンサータンパク質が用いられます。この光るタンパク質の設計情報はウイルス感染によってマウスの後帯状皮質へと届けられます)
そしてマウスたちをT字路がある迷路を進ませ、進む方向の意思決定を行わせます。
正解の方向を選んだ場合には、報酬として水が与えられました。
こうすることで意思決定を担う神経ネットワークにおいて、どのニューロンとどのニューロンがどのように接続しているかを、網羅的に調べ上げることが可能になります。