この段階では、個人の疑念がグループで繰り返し語られ、次第に物語のように強化されていきます。
「みんながこう言っているのだから、きっと何か裏があるはずだ」という思いが、グループの一体感と共に納得感をもたらします。
多少の矛盾や疑問があっても、共鳴し合う体験そのものが、論理や証拠よりも優先されていくのです。
そして最後の「行動的共鳴」へと進みます。
「本当のことを知らない人にも伝えなければ」「自分たちが社会を変えなければ」という使命感が生まれ、SNSで情報を拡散したり、デモや抗議活動に参加する人が増えていきます。
研究チームの観察では、「子どものために真実を伝えたい」とデモに参加した親の姿や、仲間と共に“市民運動”として活動を広げていく様子も記録されています。
ここまで読んで、「人が集まれば自然と盛り上がるのは当然では?」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、この研究の新しさは、「陰謀論に巻き込まれる現象」を“個人の知識や性格の問題”ではなく、“社会的な共鳴プロセス”として科学的に分析し、その全体像を三段階で初めて体系化した点にあります。
これまで陰謀論は「頭が悪い」「だまされやすい」「精神が不安定」といった個人の弱点で説明されがちでした。
しかし本研究では、冷静で知的な人も、仲間と共鳴しながら物語を共有するうちに、論理的な違和感や矛盾よりも“共感の納得感”を優先してしまうという、社会的なメカニズムを明らかにしています。
そして、この現象は陰謀論だけでなく、アイドルファン活動や投資コミュニティなど現代社会のさまざまな集団でも繰り返し起きているものだと指摘しています。
こうした様々なコミュニティごとの常識にまで拡張して考えると、思い当たることがあるという人もいるかもしれません。
「私だけは大丈夫」と思っている人でも、共感やつながりの力によって“普通の人”が巻き込まれていく──そのリアルな仕組みを、質的な現場調査とともに初めて明快に描き出したのが今回の研究です。