これはケース内の半分をガラス玉を敷いた明るい部屋にし、もう半分をガラス玉のない暗い部屋にしたもので、中央から自由に行き来できます(下図を参照)。
マウスは明るく開放的な場所を嫌い、暗くて狭い場所を好むので、この場合も当然、ガラス玉のない暗い部屋を好むはずです。

チームはマウスを明るい部屋に入れた状態で実験を始めたところ、予想通り、マウスはすぐに快適な暗い部屋に移動しています。
そこでマウスが暗い部屋に入るタイミングで、手綱核にシータ波(8 Hz)の電気刺激を与えてみました。
すると驚くことに、マウスは快適なはずの暗い部屋を避けるようになり、ガラス玉のある明るい部屋に留まる時間が長くなったのです(上図のB)。
このことから、手綱核が不安感をコントロールする脳領域であり、さらに不安感を人為的に誘発できることが確認できました。
不安感を人為的に抑制することに成功
これを踏まえてチームは、人為的な方法で不安感を逆に抑制できないかチャレンジすることに。
ガラス玉の不安環境にあるマウスの脳を調べてみると、手綱核への脳血流量が増大し、アストロサイト内のpH(水素イオン指数)が酸性化していることが分かりました。
pHは0~14の数値で表され、pH7を中性とし、7より小さい場合が酸性、大きい場合がアルカリ性となります。
つまり、不安感が生じているマウスのアストロサイトは「酸性化」した状態にあるということです。
だとすれば、アストロサイトを人為的にアルカリ化することで、不安感にともなう酸性化を打ち消し、抗不安作用が生まれるのではないでしょうか?
そこでチームは光遺伝学という技法を用い、光の照射で細胞の遺伝子発現を制御できる遺伝子改変マウスを作り、光刺激でアストロサイトの細胞内をアルカリ化させてみました。