どこから奪回するのか。これは、「高市氏なら自民党に投票していた」と答えた243人が実際に投票した先をみればわかる。図7がそれで、図7(a)は人数を、図7(b)はその党の投票者に占める割合を示したものである。
図7(a)を見ると参政党と国民主党が多くて、50~60人に達している。投票に行かなかった人も高市氏なら50人程度が高市氏に投票すると言っており、この3つで6割を占める。
図7(b)の投票先での比率でみると、国民民主党・参政党がやはり高いが、保守党がさらに高くなっている。国民民主党の投票者の2割程度、参政党投票者の4割弱、そして保守党投票者の5割弱が高市氏が総理なら自民党に投票していたと答えている。この比率は非常に高い。自民党から離れた岩盤保守層が、国民民主、参政、保守の3党に移動していることをうかがわせる。高市氏が総裁になって選挙を戦えば保守票は取り戻せそうである。
野党側としてはそれは避けたいところだろう。すでに参政党の登場で右派ポピュリズムへの警戒感は高まっている。今は保守票が分裂しているので大きな脅威になっていないが、高市氏のような人が出て保守票をまとめてしまうと脅威が倍加する。それを避けるためには石破政権が続いた方がありがたい。かくして野党は石破おろしをしないし、リベラル陣営は石破首相は辞める必要はないと言い続けていると考えられる。
選挙で3連敗して過半数割れした保守政党の首相を、なぜリベラル陣営が辞めなくてよいと言うのか、また自民党支持層の6割の人が辞めなくてよいと言っている首相を、なぜ自民党議員が辞めさせようと奔走しているのか、一見すると不思議な事態もこのように考えると理解することができる。関係者は皆、それぞれ合理的に行動しているのである。
ただ、皆が合理的に行動しているとしても、生じた結果が異例であり、ねじれていることに変わりはない。野党が選挙で敗れた与党の首相に対し、辞めないでよい、と言うのはどう考えてもおかしい。このようなねじれた事態はいずれなんらかのきっかけで解消されるだろう。今は、きっかけがあれば大きく状態が変わる不安定な均衡状態と考えられる。