ありがたいことに、グレイ氏の高弟・奥山真司氏(多摩大学)が、素晴らしい翻訳と解説の仕事をしてくださったおかげで、本書は日本語で読めるとともに理解も進みます。

(1)政治と軍事をつなぐ戦略

グレイ著『現代の戦略』は、分厚い難解な書物のようですが、核心的な主張はシンプルです。すなわち、戦略には普遍的な論理や本質、機能といったものがあり、それはクラウゼヴィッツが約200年前に示したものと変わりがない、ということです。

ここで示されている戦略とは「政策の目的のための軍事力の行使と、その行使の脅しに関するもの」です。そして、戦略とは「軍事力と政治的な目的をつなげる『懸け橋』である」という位置づけになります(『現代の戦略』45ページ)。この戦略のロジックは、規模を問わずあらゆる戦争を規定するものであり、また、陸海空そして宇宙やサイバー空間にいたる全ての軍事力を使用する際の基準となるのです。

こうしたグレイ氏の学問的・政策的ポジションは、保守的であり、クラウゼヴィッツの擁護者といえるでしょう。かれは、自身を「歴史を深く尊敬している社会科学系の人間」と位置づけ、戦略へのアプローチを「戦略史」と「政策科学」の融合と記しています(前掲書、23ページ)。

現在の政治学が歴史学から離れて数量的になる傾向にある中で、こうした歴史に立脚したオーソドックスな戦略研究は、とても価値のあるものではないでしょうか。

(2)百科全書的戦略論

『現代の戦略』は、方法論が異なる歴史学と社会科学(政策科学)を取り入れていることがメリットである反面、その方法論があまり定まっておらず、既存の研究への批判が、ややもすると「独善的」になっているようにも読めます。

本書の主要な目的は、グレイ氏によれば「あらゆる時代のあらゆる戦略の経験には統一性がある」という仮説を「説明」することです(前掲書、43ページ)。これだけでは「仮説」が何を意味するのか不明瞭ですが、本書を読み進めていくと、歴史研究によくあるように、埋め込まれる暗示的な形で仮説がそれとなく示されています。