つまり、任天堂は戦略的に出し惜しんだのではなく、生産リスクや品質・価格の維持を加味したうえで、現実的な販売目標を選んだというのが実像である。物理的な制約がある中で、リスクとブランドを両立させるための最適解だったのだ。

想定以上に上がった期待値

Nintendo Switch 2は発売前から過熱しすぎていた。最大の要因は、任天堂自身が展開する情報戦略にある。2025年4月にYouTubeで配信されたNintendo Directは、日本語配信だけで同時視聴者数300万人を超えた。前代未聞の注目度だった。

この盛り上がりを受けてユーザーの期待値は一気に膨らんだが、予約しても落選というギャップが、SNSで怒りとなって爆発した。

問題は、任天堂がこの期待値のコントロールに失敗したことだ。需要は事前の宣伝で最大化されていたにもかかわらず、供給体制の具体的な見通しは共有されなかった。供給が追いつかないなら、なぜそこまで煽ったのか、という疑問が残るのは当然だ。

企業としてはマーケティングの成功であっても、ユーザーから見れば騙された、焦らされたという不信感に転じる。この構図を繰り返してしまえば、いずれブランドそのものが疑われるようになる。

品薄商法が任天堂にとって不利益な理由

任天堂にとって、品薄は本当に得なのだろうか。実は過去に、それが明確に損失となった事例がある。

2017年、スプラトゥーン2という人気ソフトの発売とほぼ同時期にNintendo Switch本体が全国的に品薄となり、各地の家電量販店ではソフトは潤沢にあるのに本体がないという状況が続いた。

このとき任天堂は公式サイトで品薄に関するお詫びを発表し、出荷増を明言せざるを得なかった。小売は機会損失を嘆き、ユーザーは買えない、遊べないというストレスをSNSで共有し始めた。

これは企業にとっても大きなマイナスである。本体が無ければソフトが売れない。ソフトが売れなければ利益にならない。メーカー・小売・ユーザー、すべてにとって負の連鎖が起こっていたのだ。