今回の研究では、日本のような火山活動が活発な「島弧(とうこ)環境」の森林斜面でできる珪華(けいか:シリカという鉱物が固まった温泉の沈殿物)が、非常に特殊な「天然の化石工場」として働いていることが明らかになりました。

この天然の化石工場とは、温泉が流れる場所に育つ植物や生き物をそのままシリカで包み込んで、徐々に石のような化石にしてしまう仕組みです。

言い換えれば、生き物が暮らしている森そのものが、温泉の働きによってまるごと保存されてしまう「タイムカプセル」になっているのです。

なぜこの発見が特別に注目されるのでしょうか。

それは、これまで科学者たちが抱いてきた「珪華が記録できる生き物は限られている」という常識を覆す新しい事実だからです。

これまでの研究では、海外にあるイエローストーンのような巨大な間欠泉が噴き上がる温泉地を中心に調査が行われてきました。

そうした環境では、熱水の勢いが強すぎて周囲の森や草地が破壊され、生き残れる植物や生物の種類は非常に限られてしまっていました。

そのため、これまで見つかってきた太古の珪華化石にも、特殊で限られた種類の生き物しか閉じ込められていないだろうと考えられてきたのです。

つまり、これまでの珪華が記録してきた地球の歴史は、「モノクロ写真」のように情報量が限られているものだとみなされていました。

しかし、今回の日本のような環境は、こうした海外の巨大な温泉地とはまったく異なっています。

森の中で静かに流れ出す小さな温泉が、豊かな自然環境と共存しています。

こうした環境では、植物や昆虫、微生物などが多様に暮らし、珪華がこれらを自然な状態のまま封じ込めることが可能になります。

例えるなら、この新しいタイプの珪華は、生態系の豊かさをそのまま保存する「カラー写真」のような存在になりうるのです。

そのため研究チームは、今回調査した中房温泉のような現代の環境を、過去にできた珪華化石の成り立ちや保存された生物を理解するための「現代の有用な手本(modern analog)」として位置づけました。