こうした非常に細かいレベルでの観察が可能になったことで、熱によって原子が小さく震える様子まで「像のにじみ」として映し出されるようになったのです。
実際に研究チームが得た画像では、本来は点のようにはっきり映るはずの原子が、丸くぼやけたり、楕円形に伸びて映っていることが分かりました。
ここで重要なのは、原子自体の形やサイズが変化しているわけではないということです。
この「にじみ」や「伸び」は、撮影中に原子が熱のエネルギーで小刻みに動き、その動きが映像として記録される際にブレてしまうために起きている現象です。
たとえば、暗い場所でカメラのシャッタースピードを遅くして人の動きを撮影すると、動いている人は写真の中でぼんやりとブレて見えますよね? それと同じことが原子の世界でも起きているのです。
研究チームは、このにじみや伸びの具合を詳しく分析することで、「原子一つ一つがどのくらい揺れているのか」「どの方向に揺れているのか」を正確に割り出しました。
さらに分析を進めると、材料の中でも特定の場所によって原子の揺れ方が違うことが分かってきました。
特に「ソリトン」と呼ばれる原子が並ぶ境界線では、原子の揺れが同じ方向にそろって楕円形に伸びる傾向があり、「AA」と呼ばれる原子同士がぴったりと重なった場所では揺れの大きさが最も大きくなることがはっきりしました。
これらの揺れの特徴こそ、研究者が長年理論的に予測してきた「ファゾン」の特徴そのものでした。
言い換えると、今回の実験により、二枚の原子シートをほんのわずかにずらした「モアレ構造」では、これまで目で見ることができなかった特別な低エネルギーの揺れ(ファゾン)が、材料の熱の動きを特に支配していることを初めて映像として証明したのです。
この成功は、長い間「理論上の予測」にとどまっていた原子の微小な振動を、現実に存在する現象として実際に見ることができた歴史的な瞬間だったのです。