今回の研究の最大の成果は、理論だけで予測されてきた「ファゾン」という特別な原子の揺れを、世界で初めて原子一つひとつの動きとして捉えることができた点にあります。

科学の世界では、理論で予測された現象を実験で直接見ることができると、その現象が本当に存在することを示す決定的な証拠になります。

これまでは、ファゾンという現象は「理論上は起こるはず」と考えられていましたが、実際に原子レベルでの証拠を誰も持っていませんでした。

今回、原子が振動する様子を明確に捉えたことで、科学者たちは「ファゾン」という新しいタイプの振動が間違いなく存在すると確信できたわけです。

この研究成果のすごさを例えるならば、「熱の指紋」を読み取る技術が生まれたようなものです。

もちろん、ここで言う「指紋」は比喩的な表現ですが、私たち一人ひとりが持つ指紋がその人を特定する手がかりになるように、原子の揺れ方にもそれぞれの物質や構造に特有のパターンがあります。

今回の新技術によって、その微細で特別な揺れのパターンをはっきりと描き出すことが可能になりました。

言い換えると、これまでは目に見えなかった原子の小さな揺れを「地図」のようにはっきりと示すことで、熱や電気の性質を決める非常に重要な情報を得られるようになったのです。

なぜ、この「熱の指紋」を知ることが重要なのでしょうか。

物質の性能は、原子がどのように配置されているか(構造)だけでなく、その原子がどう揺れているかという「振動の性質」にも大きく左右されます。

原子が小さく揺れる動き方が変われば、物質の熱の伝わり方や電子が動くスピードも変化します。

これまでの材料開発では、「どの原子をどこに並べるか」が中心でしたが、これからは「原子をどのように振動させるか」という視点も重要になるのです。

研究チームは今後、この新たに得た技術を使って、材料の中に存在する「欠陥」や「境界部分」が原子の振動にどのような影響を与えるのかを詳しく調べようとしています。