この顕微鏡は、光の代わりに電子という非常に小さな粒子を高速で試料にぶつけ、その電子が試料を通り抜けるときに作る独特の模様(回折パターン)を記録します。
電子は原子よりも小さいため、原子の細かな形状を映し出すことが可能です。
しかし、原子の細かい揺れを捉えるためには、さらに工夫が必要になります。
研究チームは今回、電子顕微鏡をさらに進化させた「電子ピトグラフィー」という最新技術を用いました。
電子ピトグラフィーとは、試料に電子を当てて生まれた回折パターン(電子が散らばって作る波の模様)をたくさん集め、それらをコンピューターで一枚の精密な像に組み立て直すという高度な手法です。
少し難しく感じるかもしれませんが、例えばスマホでピントのぼけた写真を何枚も撮り、それらを重ねて画像処理することで、非常に鮮明な一枚の写真を作るイメージに似ています。
この方法を使って研究チームが観察したのは、「二硒化タングステン(WSe₂)」という特別な材料です。
この材料は、二枚の非常に薄い原子シートを約1.7度だけわずかにずらして重ね合わせたものです。
わずかな角度で重ねたことで、原子同士の並び方が複雑に変化し、独特の模様(モアレ構造)が現れています。
研究チームは、この材料を使えば「ファゾン」のような特殊な振動を見つけることができると考えたのです。
結果、これまでの電子顕微鏡では0.96オングストローム(原子が並ぶ距離を測るための小さな単位)までしか見分けられなかった精度が、一気に0.32オングストロームへと向上しました。
さらに特殊な処理を施すことで、最終的には0.29オングストローム未満という驚異的な細かさで原子を観察することに成功しました。
また、原子同士のわずか14.7ピコメートル(1メートルの1兆分の1の、さらに100分の1という極小の距離)ほどの間隔も、はっきり区別して見ることができました。