ファゾンはまさに、二次元材料特有の不思議な性質(熱の伝わり方や超伝導の起き方)を解明するための重要なカギだと理論的に考えられています。
しかし、この「ファゾン」と呼ばれる揺れ方には大きな問題がありました。
これまでファゾンは「理論的には存在する」と予測されていましたが、実際に実験で見た人は誰もいませんでした。
その理由は、この振動をとらえるためには非常に高い性能を持つ顕微鏡が必要だからです。
つまり、原子1つ1つがどのように動いているかを見分けられるほどの高い空間分解能(細かいところまで見える能力)と、非常に低いエネルギーでゆっくりとした振動を感知する能力の両方が必要でした。
残念ながらこれまでの顕微鏡技術では、この二つの条件を同時に満たすことが難しかったため、ファゾンを直接観測することができなかったのです。
こうした状況の中で、研究チームは未だ誰も見たことがない「ファゾンの直接観測」に挑むことにしました。
目指したのは、「原子の世界の揺れをそのまま映像に収める」という、これまで誰も到達していない新たな研究領域です。
そのために、研究者たちは近年新しく開発された最先端の電子顕微鏡技術に注目しました。
原子の『震える姿』を捉えた新技術

では、研究チームはどのようにして、これまで誰も見ることができなかった原子の「震え」を捉えることに成功したのでしょうか?
これには、まず「原子を観察する」とはどういうことなのか、少し説明する必要があります。
私たちが普段使う光学顕微鏡(学校の理科の実験などでよく使われるもの)は、光をレンズで集めて拡大することで物を見る道具ですが、残念ながら原子のような極めて小さいものを見ることはできません。
なぜなら、原子は光よりもずっと小さいため、光の波長では細かな形が捉えられないからです。
そこで登場するのが「電子顕微鏡」という特別な顕微鏡です。