物質の性質を理解するとき、この「原子の振動」を抜きにして考えることはできません。
科学の世界では、この原子が規則正しく振動することを「格子振動」と呼んでいます。
格子とは原子がきれいに並んでいる様子を表す言葉で、まるで格子模様のように規則正しく並んだ原子が揺れていることからそう呼ばれています。
この振動がどのようなパターンを持ち、どのように広がっていくかが、熱や電気など物質の性質を左右します。
例えば、特定の振動パターンがあると熱がスムーズに伝わったり、逆に振動が邪魔をして電子がうまく動けずに電気抵抗が高くなったりします。
つまり、目には見えない微小な振動こそが、私たちが使う物質の性能や機能を大きく変えてしまうのです。
近年、この「原子の振動」をうまく利用する新たな材料として、「二次元材料」という非常に薄い素材が注目されています。
「二次元材料」とは、原子が平面的にシートのように広がり、その厚さがわずか原子数個分という極薄の材料のことを指します。
このような超薄型の材料では、シート同士の並び方をわずかに変えるだけで、これまでになかった特別な電子的性質が現れることが知られています。
たとえば、電気抵抗がゼロになる「超伝導」という不思議な性質が現れることもあり、エネルギー問題を解決する鍵として期待されています。
特に注目されているのは、二枚の原子シートをほんのわずかにずらして重ねるときに現れる「モアレ構造」というパターンです。
「モアレ」とは、二つの規則的な模様を少しだけずらして重ねたときに現れる新しい模様のことを指します。
これと同じことが原子シート同士でも起こり、原子が並ぶ模様が複雑に入り組んで独特な構造が現れます。
すると、この新しい構造の中には普通の結晶には見られない、非常にゆっくりした特殊な振動モード(揺れ方)が生まれることが理論的に予測されています。
その特殊な揺れの中でも、特に低いエネルギーでシート同士が横方向にゆっくりずれて揺れる特殊なモードが「ファゾン(モアレ・ファゾン)」と名付けられました。