もちろん、こうした方法が実際の医療現場で使われるまでには多くの課題が残っています。

たとえば、動物実験で成功したからといって人間で同じ結果が得られるとは限りませんし、免疫の働きを強く刺激すれば、健康な細胞にまで攻撃が及ぶという副作用のリスクも考えられます。

また、がんの種類や患者の体質によって効果に差が出る可能性も十分にあります。

それでも今回の研究が画期的なのは、「がん細胞の特定の目印を探すことなく、免疫自体を強く刺激すればがんに対する幅広い効果が得られる可能性がある」という証拠をはじめてはっきりと示したことにあります。

これは、これまでの「がん治療の常識」を覆す新しい視点であり、世界中の研究者たちに新たな希望を与えています。

将来的には、体が本来持つ防衛力である免疫力を最大限に活用してがんと闘う新たな治療法が登場し、『がん治療の新時代』が始まることになるかもしれません。

今回の研究成果は、その大きな可能性に一歩近づく重要な一歩なのです。

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元論文

Sensitization of tumours to immunotherapy by boosting early type-I interferon responses enables epitope spreading
https://doi.org/10.1038/s41551-025-01380-1

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部