これまでのがん治療研究とは異なるこの新しい考え方は、がん免疫療法の可能性を大きく広げるものとして、世界中で注目されています。

“がん免疫の再教育”が始まった

“がん免疫の再教育”が始まった
“がん免疫の再教育”が始まった / Credit:Canva

今回の研究成果は、これまでのがんワクチン研究とは異なる新しい可能性を示す、とても重要なものです。

従来のがんワクチンは、がん細胞に特有の目印(抗原)を一つ一つ探し、その抗原をターゲットにして免疫細胞ががん細胞を攻撃できるように仕向ける方法を取っていました。

しかしこの方法には、すでに説明したように「がん細胞の目印探し」という難しい問題があります。

どんなに頑張っても、すべての患者に共通の目印を見つけるのは困難ですし、個別に目印を探すと時間とコストが大きくかかります。

ところが今回の研究チームは、目印をあえて探さずに、「免疫の働きそのものを直接強めることで、結果的にがんを攻撃できる」というまったく新しい方法を提案しました。

このような考え方を共同研究者のデュエイン・ミッチェル博士は、「患者自身の免疫を、特定の目印にとらわれることなく呼び覚ますことができる可能性がある」と表現しています。

もしこの考え方が今後の研究で人間に対しても有効であると証明されれば、がん治療の現場は大きく変わるかもしれません。

なぜなら、患者一人一人に合わせて特別なワクチンを作るのではなく、あらかじめ準備しておいた共通のワクチンを使えるようになるからです。

このように、事前に準備できてすぐに誰にでも使えるタイプの治療法のことを「オフ・ザ・シェルフ(棚からすぐに取り出せる)」型と呼びます。

がんを特異的に標的とするのではなく、強力な免疫反応を刺激するように設計されたワクチンを用いることで、非常に強力な抗がん反応を誘発できることを発見しました。したがって、この研究はがん患者全体に広く応用できる大きな可能性を秘めており、市販のがんワクチンの開発につながる可能性さえあります。