これらのホルモンは、記憶の司令塔である「海馬(かいば)」や、感情の中枢である「扁桃体(へんとうたい)」といった脳の場所に作用して、「この出来事は大事だから、しっかり覚えておこう!」と脳に命令を出すのです。
嬉しかった日や悲しかった日のことがよく記憶に残っているのは、このように感情が動いたときに、ホルモンが脳に働きかけているためです。
これを利用して、「音楽を聴いて気持ちを盛り上げれば、記憶がより強く残るのでは?」と考える科学者もいます。
実際、アルツハイマー病のように記憶力が落ちてしまう病気や、不安症やPTSD(心的外傷後ストレス障害)のような、辛い記憶に苦しむ人たちに対して、音楽を用いた新しい治療法が提案されてきました。
ただし、現時点ではまだ病院などでの効果ははっきりとは証明されていません。
あくまでも、「音楽で記憶を良くできるかもしれない」という段階なのです。
一方で、感情による記憶の強化は、いつでも必ず起こるとは限りません。
例えば、スポーツやテストの前に緊張や興奮しすぎると、頭が真っ白になってうまくいかないことがありますよね。
これは、興奮や緊張が強すぎたり、逆に気が抜けすぎたりすると、脳の力が発揮できなくなるという現象です。
心理学の世界では、このような現象を「ヤーキーズ・ドッドソンの法則」と呼んでいます。
この法則によると、人がもっとも高い力を出せるのは、「適度に緊張したり興奮したりしている時」であり、緊張や興奮が強すぎたり弱すぎたりすると、むしろ力が出なくなることが知られています。
また、感情が非常に強く動くような体験では、記憶にも面白い変化が起きます。
例えば、大勢の前で発表をしたときを想像してみましょう。
緊張して胸がドキドキしていたら、その時の出来事は強く覚えていますよね。
でも後で「あのとき何て質問されたかな?」などの細かな部分は思い出せなかったりします。