試行錯誤しながらの判断は、専門課程の社会学講座助教授であった恩師鈴木広先生が翻訳されたミルズの『社会学的想像力』(1959=1965)を読むことであった。何しろ授業が再開され、毎週講義やゼミでお会いするのだから、分からなければ直接質問できるというメリットがあった。

キーワードは「概念」

先生の翻訳は分かりやすい日本語だったので、この本を精読することにより、社会学の世界に初めて浸ることができた。加えて、専門的「概念」は慣れないとその理解は難しいが、ミルズの「概念とは経験的内容をもった観念である」(同上:162)により、何か分かったような気がした。新規の概念に出会っても、その具体的な内容を勝手に想像することで、一人で本を読み進めることができた。

概念には豊かな経験的内容が含まれる

一般的にいえば専門分野で長年の使用に耐えてきた概念は、それだけ豊かな経験的内容が含まれていて、学ぶ価値がある。社会学では権力や社会運動や核家族などがこれに当てはまる。さらに、時代に即した新しい事実がそこに加わると、新しい概念への深化や分化が始まる。

たとえば権力論ではエリート論が終始主流ではあったが、多元論(pluralism)の台頭により、権力概念に幅が出てきた。また、労働運動を社会運動の象徴とした時代から市民(住民)運動が大都市で多発するようになったので、集合行動という新しい概念を使う論文や著書も出てきた。

かつての日本では三世代同居の家族構成が普遍化していたが、高度成長期からはそれが二つの核家族に分裂したところに単身化が重なり、核家族の平均世帯人員も減少し、「小家族化」という現代を特徴づける重要な概念が生みだされた。

古い概念と新しい事実

ミルズが強調したように、「古い概念と新しい事実」(同上:115)が最良のコンビなので、それまでの概念に新しい事実を付加することで、社会現象が説明しやすくなる。