笑いは悲しみよりも深い現象です。

多くの人にとって、自分が悲しんだり怒っている理由を他人に説明するのはそれほど困難ではありませんが、自分が笑ってしまった理由を他人に理解させるのは、しばしば、極めて困難となっています。

また笑いは人間に先天的に備わった機能でありながら、存在意義があまり鮮明ではありません。

恐怖や怒りが生存に必須であることは簡単に理解できるものの「笑い」の必要性となると、多くの人が頭を抱えてしまうからです。

しかしイタリアのシエナ大学(University of Siena)で行われた研究には、「ユーモア」の理論と笑いの役割を再検証し、笑いの本質が「警戒解除の信号」にある可能性を報告しています。

この理論で「他人の顔にパイをぶつけるシーン」を解釈すると、「顔にパイがあたる」から笑うのではなく「顔に物があたっても心配ないことを周りに知らせるため」に人間は笑っていたことになります。

本当に人間は自分のために笑っていたのではなく、他人のために笑っていたのでしょうか?

研究内容の詳細は2022年8月24日に『New Ideas in Psychology』にて掲載されました。

目次

  • あらゆる論文を分析して笑いが存在する理由を解明する
  • 体に発生する笑いのメリット

あらゆる論文を分析して笑いが存在する理由を解明する

パイを顔にぶつけるシーンは定番のネタである
パイを顔にぶつけるシーンは定番のネタである / Credit:Canva

これまでの研究により、私たちを笑わせるものとは何なのかを説明するために、数多く(20個以上)の理論が構築されてきました。

これらユーモアの理論では「驚き」「常識からの逸脱」「他人に対する優越感(嘲笑)」「解釈の不一致」「無害さ」の5要素が、人間を笑わせる要因であることが示されています。

たとえばコメディーで「他人の顔にパイをぶつけるシーン」においては視聴者をビックリさせる「驚き」と食べ物を顔に当てるという「常識からの逸脱」、そして基本的に視聴者にとって「無害」であるという3つの要素が含まれています。