ただこれを人間で定量的に確かめるには、人間を実験室のような条件を揃えた環境で脳をモニタリングしながら「解体」しなければなりませんので現実的に確かめるのは困難と言えるでしょう。それでも判明している範囲で脳の仕組みを考えると、私たちがどんな風に世界を感じて、何を大事だと思うのかが、少しずつ見えてきます。ですので、「体のどこを大切に感じるか」はただの思い込みではなく、脳のしっかりした“合理的で精密な仕組み”が裏側で支えている可能性が高いのです。

もちろん価値観が完全に一致するわけではありません。

研究者たちは「多少の違いが生じるのは合理的」と述べています。

たとえば狩猟民にとっては視力が最重要かもしれず、音楽家には指先の器用さが欠かせません。

社会や環境によっても違いは出ます。

紛争の多い地域では身を守るための腕力が重視される可能性があります。

こうした職業や文化環境による差異は今後の検討課題です。

それでも今回の発見は、人間の心理や進化が社会制度にどのように影響しているかを考えるうえで大きな手がかりとなります。

現代の私たちが「それは不公平だ」「このくらいの償いは当然だ」と感じる感覚は、遠い昔の人々とも共有されていた可能性が高いのです。

労災補償や損害賠償制度を設計するときにも、人々が本能的に納得しやすい基準を再考するヒントになるでしょう。

古代の知恵と人間の本能に光を当てたこの研究は、法学・心理学・私たちの「公正さ」への感じ方に新たな議論を呼び起こすはずです。

ただし限界もあります。

調べた法律の数はまだ少なく、体の部位ごとの価値がどれほど正確に反映されているかは今後の検証が必要です。

またスウェーデンのグータ法に関する一部の分析は探索的にすぎず、確定的な結論ではありません。

これらの点は今後の研究で解決されるべき課題です。

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元論文

Laws about bodily damage originate from shared intuitions about the value of body parts
https://doi.org/10.1126/sciadv.ads3688