
2025年夏、高校球児の夢の舞台である甲子園で前代未聞の事態が発生した。第107回全国高校野球選手権に出場した広陵高校(広島)が、1回戦で旭川志峯高校(北北海道)に快勝しながら、2回戦を前に出場を辞退。その理由は、野球部内での上級生による下級生への常態化した暴力行為、いわゆる「シゴキ」の存在が発覚し、その様子を収めた動画がSNSで拡散されたことだった。
この出来事は、野球に限らず、サッカーやラグビー、その他の学生スポーツにおける勝利の価値とは何か、そして、令和の世になっても消えることがない、指導の名の下に行われる上級生や指導者により暴力の根源はどこにあるのかなど、学生スポーツの在り方という根源的な問いを社会に突き付けた。
ここでは、広陵高校の悲劇的な決断を通じて、学生スポーツ界に深く根を張る暴力と隠蔽の構造を掘り下げる。

勝利から一転、出場辞退へ。広陵高校が突き付けた現実
甲子園での今大会で、広島の名門である広陵高校は、優勝候補の一角として順当に1回戦を突破。しかし、その勝利の余韻は、たった1本の動画によって無残に打ち砕かれる。SNS上で拡散されたのは、同校の寮や練習場とみられる場所で、上級生が下級生に対し、殴る蹴るといった執拗な暴力を加える衝撃的な映像だった。
映像は瞬く間に拡散され、広陵高校や高野連(日本高等学校野球連盟)への批判が殺到。当初、学校側は事実関係の調査を理由に慎重な姿勢を見せ、高野連も「既に処分済み」としていたが、世論の圧力と事態の深刻さ、ついには学校への爆破予告が届いたことを鑑み、広陵高校は2回戦への出場辞退という苦渋の決断を下した。この選択は、部活動内における暴力問題の根深さと、それがもはや内々で処理できる問題ではないことを痛感させた。