研究では、熱中症のリスクが見逃されやすいのは、初期の症状がごく軽く感じられるからだと指摘されています。たとえば、だるさ・めまい・立ちくらみといった初期の兆候は、ただの疲れや寝不足のようにも思えてしまいます。
さらに、屋外での作業やスポーツの現場では、「自分だけ休むのは気が引ける」「みんな頑張っているから」といった心理的プレッシャーが重なります。これが対応の遅れにつながり、症状を悪化させる要因になると報告されています。
つまり、熱中症を予防できずに突然倒れてしまうという問題は、症状を自覚しづらいだけでなく、周囲と合わせようとする頑張りや我慢など、心理的な作用も大きな要因になっているのです。
対策は「体の仕組み」を理解することから

水分補給は確かに重要です。ただし「のどが渇いたときに飲めばいい」では遅いのです。
のどが渇いたという信号は、汗によって血液中の水分と塩分が失われる速度が早い高温の環境下では知らせるタイミングが手遅れになる可能性があります。そのため喉が乾く前に、こまめに水と塩分を補給しなければ、体の冷却システムがうまく働かなくなってしまうのです。
また、この水分補給について、「コーヒーやお茶はカフェインが含まれているから、飲んでも逆に水分が失われる」などの意見を聞くことがあります。たしかに、カフェインには軽度の利尿作用(尿の量を増やす作用)があることは昔から知られています。
しかし、だからといって「水分補給に不適切」というわけではないというのが、近年の科学的な見解です。
たとえば、2016年にイギリスのラフバラー大学で行われた研究(Maughan RJ,et al. 2016)では、日常的にカフェインを摂取している男性たちを対象に、ミネラルウォーターとコーヒーを比較しました。その結果、コーヒーであっても水分保持能力は水と同程度であり、「コーヒーも有効な水分補給になりうる」と結論づけられています。