ところが、この冷却方法には大きな弱点があります。汗の原料は、血液から取り出した水分や塩分(ナトリウムなど)なのです。つまり、たくさん汗をかくということは、体の中の水分と塩分がどんどん失われていくことを意味します。

そのため、水分や塩分の補給が間に合わなければ、血液量は少なくなり、汗も出にくくなっていきます。また、皮膚に熱を逃がすための血流を送る余裕もなくなっていきます。

このように、体の冷却機能がだんだんと追いつかなくなってくると、いよいよ体温が急上昇し始め、補償反応の限界を超えてしまうのです。

限界を越えると“急激に悪化”する

長時間にわたって暑さにさらされ続け、体の補償反応が対応しきれなくなると、いわゆる熱中症になります。

この段階では、脱水症状とともに体温を下げるための皮膚への血液輸送が優先され、脳や内臓への血流が減っていき、めまいや立ちくらみ、吐き気、頭痛、判断力の低下などが現れます。ここで適切な処置をすれば回復できますが、無理を続けると体温がさらに急上昇し、深刻な状態に陥ります。

特に問題となるのが「熱射病」と呼ばれる重症の熱中症です。体温が40℃近くまで上がり、脳や内臓の働きに重大な障害が起こりはじめます。なかでも「腸」は熱に弱く、血流不足や高熱の影響で、腸の細胞が壊れてしまうことがあります。

ふだん腸は、体に悪いものが入り込まないように「バリア」の役割を果たしていますが、この機能が壊れると、腸内の細菌や毒素(エンドトキシン)が血液中に漏れ出してしまいます。その結果、体の免疫が過剰に反応し、「全身性炎症反応(SIRS)」という危険な状態を引き起こすことがあります。

ただし、これはすべての熱中症で起こるわけではなく、放置されたごく一部の重症例で起きる現象です。それでも、こうしたリスクがある以上、初期の段階での早めの対処が命を守ることにつながります。

大丈夫”と思ってしまう心理が症状を悪化させる