しかしここで一つの疑問が生じます。
これほどまでに一瞬で温度が上がったかどうかを、どのようにして測定するのでしょうか?
実際の温度計ではとうてい測ることができない短時間での超高温を、研究者たちはどうやって正確に把握したのでしょうか?
この答えとして研究チームが考え出したのは、物質の原子の動きを直接測定するという非常に画期的な方法でした。
原子は熱が高くなればなるほど激しく振動する性質があり、その振動の大きさやスピードを測定できれば、そのまま物質の温度を知ることができるというわけです。
具体的には、超高輝度のX線レーザー(SLACのLCLS:リーナック・コヒーレント・ライト・ソース)を金の薄膜に照射し、金の原子にぶつかって散乱したX線を詳細に解析しました。
この散乱したX線は、原子が激しく動いているほど微妙にエネルギーが変化します。
その変化の度合いを精密に計測することで、研究者たちは、超高温状態にある金原子の正確な振動速度を知ることができたのです。
言い換えれば、原子の振動を直接「見る」ことで、物質の温度を測る「究極の温度計」を手にしたことになります。
こうした工夫により、研究者たちは、これまで誰も測ることができなかった領域の温度を初めて正確に測定することに成功しました。
その結果、驚くべきことが判明しました。
金の薄膜の温度は、なんと約1万9000ケルビン(摂氏約1万8700℃)にまで達していたのです。
これは金が通常溶ける温度(融点)である約1337ケルビン(摂氏1064℃)の14倍という途方もない高温で、従来の理論が予想していた「エントロピー破局の限界」(融点の約3倍)をはるかに超えていました。
さらに驚いたことに、このような極端な高温状態であるにもかかわらず、金はすぐには融解せず、短時間ではありますが固体のままの構造を維持したのです。
実験を行った研究者自身も、この結果には強い疑いを持ったといいます。