将来的には、複数の光子が絡み合った高度な量子状態を使った新しい実験や、それらを量子通信ネットワークに応用することも視野に入れています。

もうひとつ重要なのは、「自然界に対称性(バランスや規則性)があれば、対応する保存則が必ず成り立つ」という物理の基本原理を、光子一つという極小スケールで実証した点です。

つまり、この実験は波の性質を表す数式だけでなく、実測によって保存則が単一光子レベルでも崩れないことを裏付けました。

普段は当たり前に思える物理法則が、極限条件でも破れないと示した意義は大きいと言えます。

「たった一個の光子でも、守るべき物理のルールはきちんと守られる」という結果は、量子科学や量子技術の新しい可能性を広げ、未来の量子コンピューターや量子通信を支える重要な基盤として今後ますます注目されるでしょう。

やや詳しい解説(専門家向け)

本研究は、単一光子がポンプとなる自発的パラメトリック下方変換(SPDC)において、光の軌道角運動量(OAM)が1量子ごとに保存されることを、自由空間を使ったカスケードSPDCで実験的に確かめたものです。従来は強いレーザーポンプを用いたSPDC実験で平均としての保存しか確認できませんでしたが、今回は「1個の光子」レベルで直接的に保存が成立することを観測した点が大きな新規性です。

SPDCにおける非線形相互作用は、次のようなハミルトニアン(エネルギーを表す式)で記述されます。

H ∝ ∫ d^3r χ(2)(z) E_p^(+)(r,t) E_s^(+)(r,t)† E_i^(+)(r,t)† + H.c.

ここで H.c. はエルミート共役を意味します。各電場はラゲール・ガウス(LG)モードに展開され、角度 φ に対して exp(i l φ) という渦位相を持ちます。そのため、モードの重なり積分は角度方向でデルタ関数条件を生み、次のような選択則が現れます。

l_p = l_s + l_i