このように定言命法で考えることで、ビジネスが骨太になり、長期的に信頼されるブランドを確立できます。
ただ定言命法には限界もあります。
【定言命法の限界①】中身を問わない定言命法は形式しか見ないので、価値の中身が正しいか否かは問いません。
そこでナチスが利用しました。それが「ヒトラー総統が汝の行為を知ったとすれば是認するように行為せよ」という「第三帝国の定言命法」です。
ナチスは、「国家と民族の利益」を絶対原則に設定し、それを全ドイツ国民の義務としました。この結果、「ヒトラーの命令=法」となり、無条件服従を正当化したのです。
つまり定言命法を誤って使うと、価値の中身が歪んでも、形式だけで正当化できてしまうのです。
一時期の「企業価値最大化経営」を掲げて、株価を上げてひたすら時価総額アップのみに邁進してムリを重ねた企業の多くが、その後窮地に陥ったのも、その例です。
本来の定言命法は、「あなたの自分ルールが、他の全ての人にとって正しければOKだよ」という考え方です。
この「他の全ての人」を誰に設定するかが問題なのです。
「会社関係者」なのか、「全国民」なのか、「全人類」なのか、あるいは「地球にいるすべての生きとし生けるもの」なのか。
考え始めると、これはなかなか難しい問題です。
たとえば「地球にいるすべての生きとし生けるもの」と考えると、私たちの食生活自体が成り立たなくなってしまいます。
これは定言命法が自分ルールをベースにしているための限界なのです。
【定言命法の限界②】硬直性私は1984年に日本IBMに入社しました。IBMを選んだ理由は、IBMの企業理念に「個人の尊重」があったからです。IBMは1911年の創業以来、「個人の尊重」を80年以上徹底し、人員解雇は一切行いませんでした。
しかし1994年に経営危機に陥って会社の存続自体が危うくなると、IBMは初の人員削減を行いました。この時に人員削減を行わなければ、IBMはおそらく潰れてました。