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この獺祭の挑戦、実に骨太ですよね。この獺祭の考え方を読み解くヒントが、実は西洋哲学の中にあります。
それはカント哲学です。
哲学というと「難しそうだし自分には関係ないなぁ」と思いがちですが、実は哲学はそんなに難しいことは言ってません。むしろ、私たちの身近な問題に対して、本質的にどう考えれば良いのかというヒントを教えてくれます。
カントは、「我々はどのように考え、どのように行動すべきか?」を考え抜きました。
そこで人間の行動原則を決める考え方としてカントが提唱したのが、「定言命法(ていげんめいほう)」と「仮言命法(かげんめいほう)」という考え方です。
【定言命法】 条件なしの行動原理。たとえば「ウソをついてはダメ」
【仮言命法】 条件付きの行動原理。たとえば「バレるから、ウソをついてはダメ」
仮言命法の「バレるから、ウソはダメ」だと、「ばれなきゃウソはOK」となりますよね。これはちょっと問題がありそうです。バレなければ、世の中はウソつきだらけ。正直者が損をしてしまいます。
そこでカントは定言命法で「(無条件で)ウソはダメ」と考えるのが正しい、としました。
この定言命法は、骨太なビジネスや自分の生き方を考える上で役立つのです。
「お客様においしい酒を届ける」という獺祭の考え方も、まさに定言命法です。「儲けるため」とか「会社のため」といった条件は、一切抜きです。
だから周囲の条件に左右されずに、自分の考え方や行動が首尾一貫するので、 長期的な信頼やブランド力につながるのです。
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獺祭とは真逆の事例もあります。GAFAの一部です。
GAFAの多くは、長年企業理念に「多様性の尊重」を掲げてきました。しかしトランプ政権が「これまでのDEI施策はすべて見直し」という方針を出すと、GAFAの一部は、「多様性の尊重」をあっさりと企業理念から取り下げました。
残念なことに、彼らの企業理念は、条件付きの仮言命法だったのですね。