悲劇的なことは、国家が情報の不確実性やコミットメント問題を克服するために、敵国に対して「絶対勝利」をしばしば追求してきたことです。こうなると戦争のエスカレーションは、敗戦国の全面降伏まで止まらなくなります。
「戦争を遂行する上で、国家は相手国を抹殺すること、あるいは少なくとも相手国に選択の余地を与えないことにより、容赦なく公約不履行の問題を解決できる」(How Wars End、p. 23)ということです。
太平洋戦争におけるアメリカを中心とした連合国の日本に対する「無条件降伏」の要求は、このコミットメント問題の文脈で理解できます。
ウクライナ戦争終結の見込み
ウクライナ戦争では、ゼレンスキー政権もプーチン政権も「情報の不確実性」や「コミットメント問題」に縛られて、戦争を終わらせることに躊躇しているようです。ウクライナとロシアが持つパワーは、それぞれに対する他国からの支援により変わりやすいので、自分と相手の正確な力量を見極めるのが難しい状況です。
ウクライナがプーチン大統領を根っからの「侵略者」であるとみなして信用しないことにくわえて、米欧からの大量の軍事・財政援助により国力を何とか維持していることも、キーウを妥協することに対して消極的にしてきたのでしょう。
これまでにウクライナに投入された支援は、アメリカだけでも総額26兆円、日本を含む西側の総額では42兆円にも上ります。くわえて、戦争を有利に進めるロシアは、仮に停戦に合意しても、その立場を利用して再び侵略してくる恐れがあることも、ウクライナにとっては深刻な懸念材料です。
他方、ロシアも同じような問題を抱えています。そのためプーチン政権が「絶対勝利」を目指して、ウクライナを機能不全な残存国家へ追い込もうとしてきたのも不思議ではありません。
停戦の「失われた機会」
興味深いことに、ライター氏は、ウクライナ戦争から約半年後、これを終わらせるチャンスがあったと見ていました。彼は『ニューヨーカー』誌の取材に対して、以下のように言っていました。