さらに今回の研究が新しいのは、「コバルトだけを選んで酸素を抜き取り、特定の場所(四面体サイト)に小さな穴を開けることで、これまでにはなかった結晶構造を作り出した」という点です。
通常、物質から酸素を取り除くと、構造が弱くなって壊れやすくなります。
しかし今回の結晶では、酸素を抜き取る役割のコバルトと、構造を支える鉄がそれぞれうまく役割を分担しているので、壊れずに何度も酸素の出し入れができました。
研究者たちは「リアルタイムで自らを調整するスマート材料の実現に向けた大きな一歩です」と述べています。
では、このような性質を持った結晶が実用化されると、私たちの生活にどのような影響を与えるでしょうか?
まず、燃料電池への応用が考えられます。
燃料電池とは、水素と酸素から電気を作る装置で、次世代の環境にやさしい発電方法として期待されています。
燃料電池の性能を良くするには、酸素が材料の中をスムーズに動くことが大切です。
今回の結晶は酸素の量を雰囲気や温度の調整によって段階的に変えることができる可能性があるため、将来的には燃料電池の性能を大きく向上させるかもしれません。
ただし、この研究はまだ材料の段階であり、実際の燃料電池に使えるようになるにはさらなる研究が必要です。
もう一つの期待できる応用は、家やビルの窓などに使われる「スマートウィンドウ」です。
スマートウィンドウとは、気温や天候に応じてガラスの透明さや熱の通り方を自動で調整できる窓のことです。
今回の結晶は酸素の出し入れによって透明度が部分的に変わるため、夏は熱をあまり通さないようにして室内を涼しく保ち、冬は逆に太陽の光をたっぷり取り入れて暖房の効率を高めることができるかもしれません。
このような窓が実現すれば、冷暖房にかかるエネルギーを節約できるため、環境に優しい社会の実現にもつながります。
今回発見された「酸素を自在に出し入れできる結晶」は、単なる科学的な興味深い発見を超えて、将来の私たちの暮らしや環境問題を改善するための重要な鍵になる可能性を秘めています。