つまり、一度酸素を抜いて透明にした薄膜に、再び酸素を戻して元の色と構造に戻るかどうかをチェックしたのです。
結果は成功でした。
酸素を抜いては戻し、抜いては戻しを繰り返しても、薄膜の構造や色は元の状態に近いところまで戻ることを確認しました。
ただし、完全に元の状態に戻ることはありませんでした(理想的な完全酸化状態には戻らない)。
また、この「酸素の出し入れ」がうまく行えるのは、比較的低い温度(400℃前後)でのみということも同時にわかりました。
もし加熱温度を600℃以上にまで上げてしまうと、薄膜の結晶構造は乱れてしまい、酸素を戻しても元の状態には戻れなくなります。
これは高すぎる温度では結晶の中の規則正しい構造が保てず、崩れてしまうためです。
そのため、あくまで穏やかな条件下で安定して酸素の出し入れを繰り返せることが、この研究成果の特筆すべき点なのです。
研究チームはさらに細かな分析も行い、薄膜の中で酸素の移動にともなって「還元前の構造」→「酸素が抜けた還元後の構造」→「酸素が再び入って戻った構造」の3つの状態がはっきり存在し、その間を何度も安定して行き来できることを確認しました。
こうして研究チームは、「酸素を出し入れする結晶」が現実に可能であることを、目に見える形で証明したのです。
呼吸する結晶が変える未来
今回の研究で特に重要なポイントは、「比較的低い温度で安定して酸素を出し入れできる新しいタイプの結晶」が実現したことです。
実は、これまで研究されてきたペロブスカイト酸化物と呼ばれる材料の多くは、酸素を出したり入れたりするために高温や高圧などの過酷な条件が必要でした。
簡単に言えば、これまでの材料は「圧力鍋」のような厳しい環境の中でないとうまく酸素の移動ができませんでした。
しかし、今回作られた結晶(SrFe₀.₅Co₀.₅O₂.₅)は約400℃という、この分野の中では比較的低い温度で酸素の出し入れを安定して行えるようになったのです。