光が波なのか粒なのか――これは量子力学の出発点ともいえる問いです。
その答えを探るために考案されたのが、あの有名な「二重スリット実験」です。
まずは、日常的な例で考えてみましょう。
砂粒やBB弾のような粒を、2つの穴を通して奥のスクリーンに向かって飛ばすと、それぞれの穴の位置に対応した2本の線がスクリーンに現れます。
これは当然の結果です。ところが光で同じことをすると、まるで水面の波のように広がって、2つの穴の後ろに明るい線と暗い線が交互に並ぶ「干渉縞(かんしょうじま)」が現れます。これは「波の性質」が働いている証拠です。
けれども、その光が「どちらの穴を通ったか」を調べるために観察装置を設置すると、あのしま模様は消えてしまい、光は粒のようなふるまいだけを見せるのです。
つまり光は、「粒」としての性質と「波」としての性質を持ちますが、それらは同時には現れてくれません。
このようなふるまいを説明する考え方が「相補性原理(そうほせいげんり)」であり、量子力学の核心的な原理の一つとなっています。
しかし、20世紀初頭の物理学者アルベルト・アインシュタインは、この現象に疑問を抱いていました。
彼は「観察によって現実が変わる」という量子力学の考え方には懐疑的で、「実際の世界は、私たちが見ようが見まいが、ちゃんと存在している」と信じていたのです
そこで1927年に、アインシュタインはあるアイデアを提案しました。
光が本当に「粒」であるならば、粒がスリットを通る瞬間にスリットをわずかに揺らし、微かな反動を与えるだろうと考えました。
例えば、小鳥が木の葉にぶつかったときに葉がわずかに動くような感じです。
もしスリットがバネのような非常に敏感な装置で支えられていれば、光が通過する瞬間の微妙な揺れを検知できるはずです。
つまり、粒子として光の経路を特定できることになります。
一方で、光が波としての性質を同時に示し、スクリーンにしま模様(干渉縞)も現れるならば、光の「粒」と「波」の両方を一度に観察できる可能性があります。