大気中の二酸化炭素の濃度を削減するためには、排出量を自然吸収率を下回る水準まで削減する必要があります。この自然吸収率は、排出量の増加分がすべて人為起源であると仮定した場合、過去数十年で排出量の約50%程度で推移してきました。したがって、全球の排出量を50%削減すれば(少なくとも一時的に)、大気中のCO2濃度の増加を停止させることができます。1997年の京都議定書は、先進国が2012年までに1990年水準から5%削減する目標を提案しました。この政策は多くの国にとって実施が困難でしたが、完全履行でも大気中のCO2濃度を大幅に削減することはできませんでした。CO2の増加をわずかに遅らせるだけであり、2100年の予測値に到達する年が2105年にずれ込むだけでした(Wigley, 1998)。Lomborg(2016)は、パリ協定の初期目標を完全に履行しても温暖化を止められず、約0.1℃の温暖化を防止し、基準年2100年の温度水準到達を約10年遅らせるだけだと推計しました。
したがって、従来の大気汚染対策とは対照的に、CO2の場合、極端な地域的な対策であっても、その地域への影響はほとんどなく、効果が出るまでには長い時間がかかります。気候変動を阻止できるという前提で、米国の単独削減を「気候変動対策」や「気候変動への対応」と呼ぶ慣行は、問題の規模に対する根本的な誤解を反映しています。
1.2 事例研究:米国の自動車排出ガス この「スケールの問題」について、米国の自動車を例に説明します。環境保護庁(EPA)の2009年の「危険性認定」では、米国における自動車と軽トラックのCO2排出量に焦点を当てました。大気浄化法の第202条(a)は、汚染物質が公衆の健康や福祉に危害を及ぼすと判断された場合、EPAが自動車の排出基準を設定するよう義務付けていることです。したがって、2009年の危険性判断は、EPAに新規自動車の排出物を規制する義務を課し、表面上は米国国民に対する気候関連の影響を削減または排除することを目的としていました。