こうした理論を模索する中で、ボーアはいくつかの重要な研究に出会います。

その1つが、当時物理学者たちの間で謎となっていた元素の線スペクトルの問題でした。

線スペクトルの例。特定の元素を燃やしたときの光には決まった波長に輝線が現れる。
線スペクトルの例。特定の元素を燃やしたときの光には決まった波長に輝線が現れる。 / Credit:科学技術振興事業団

化学の分野に、金属を燃やしたとき元素に応じて炎の色が変わる炎色反応という現象があります。

これは昔から知られているものでしたが、19世紀になると、この炎が放つ光のスペクトルに特定の線が入るということが知られるようになります。

元素によってこの線のパターンは決まっていました。いわば線スペクトルとは元素ごとに持つ光の指紋なのです。

そのため線スペクトルは、現代では天文学において、はるか遠くの天体の構成元素を知るために利用されています。

しかし当時は謎の現象でした。

そんな中、数学者のヨハン・バルマーは実験データからこの線スペクトルの出現する波長を予測する方程式を見つけ出します。

ただ、線スペクトルが現れる理由はわかっておらず、なぜバルマーの式が線スペクトルを予測できるのか誰にもわかりませんでした。

しかし、バルマーの式を見たボーアは、これが電子の軌道に関係しているということに気づくのです。

そして、線スペクトルの正体は「原子内で電子が軌道をジャンプした際に放射したエネルギー」なのだと考えました。

ボーアが考えた炎色反応で線スペクトルが刻まれる理由
ボーアが考えた炎色反応で線スペクトルが刻まれる理由 / Credit:canva,ナゾロジー編集部

原子内で決まったエネルギー量の軌道を回る電子は、炎などで外部から熱エネルギーを受けた場合、エネルギー量の高い軌道へ移動します。

しかし、電子はすぐにそのエネルギーを放出して安定した最低エネルギー状態の軌道へ戻ろうとします。

そのため炎色反応の光には、この放出されたエネルギーが、光の筋となって線スペクトルに現れるのです。

ボーアの計算したところ、これは軌道ごとのエネルギー差の予想と見事に一致しました。