その結果、エントロピーSや運動エネルギーEは止まることなく増え続け、粒子の動きは再び広がり始め、古典的な熱化と拡散の状態に戻ってしまったのです。

このことから、量子コヒーレンスと相互作用の組み合わせが、局在状態(動きが止まった状態)を保つための重要なカギであることがわかりました。

この発見は、量子の振る舞いを理解するうえでとても意義深いだけでなく、将来の技術にもつながる可能性があります。

たとえば、量子シミュレータや量子コンピュータでは、不要な熱の発生や量子のまとまりが崩れる「デコヒーレンス」が大きな問題になります。

今回の研究によって、どんな条件で熱化が抑えられるのか、また、どの程度の乱れまでなら耐えられるのかといった情報が得られれば、こうした機器の設計や改良のための重要なヒントになると考えられています。

今後の課題としては、さらに相互作用を強めたり、外から加える乱れの種類や大きさを変えたりして、局在状態がどこまで耐えられるかを調べることが挙げられます。

これにより、「熱化をどうコントロールできるか」を考えるうえでの、より実用的な設計指針が生まれるかもしれません。

そしてそれは、量子の世界のルールを深く理解し、未来の量子技術をより確かなものにしていくための大きな一歩となるでしょう。

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元論文

Observation of many-body dynamical localization
https://doi.org/10.1126/science.adn8625

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部