次に、この一次元の原子列に対して、縦方向にレーザー光を使って光の縞模様(光格子)を作り、それを短時間だけ点けたり消したりすることで、「キック」と呼ばれる力を周期的に加えました。
普通であれば、何度も力を加えられた原子たちはどんどん速く動き始め、運動エネルギーE(吸収されたエネルギーの目安)や、運動の広がりを表す情報エントロピーSが増え続け、結果として「熱化」が進むと予想されます。
ところが今回の実験では、数百回のキックの後に運動エネルギーEと情報エントロピーSの増加が止まり、どちらも一定の値で安定(飽和)するという予想外の現象が観測されました。
それだけでなく、原子の運動量分布n(k)の変化の度合いを測る指標であるJensen–Shannon距離Jもノイズと区別がつかないほど低下しました。
これは、原子の運動状態がほとんど変わらなくなったことを意味します。
つまり、どれだけ原子同士が強く押し合っていても、外からの駆動によってエネルギーがどんどん拡散していくのではなく、ある状態で“凍りついた”ように保たれていたのです。
この現象は、多体系動的局在(MBDL)と呼ばれ、理論では予想されていたものの、今回の実験によって初めて明確に確認されました。
さらに論文では、この局在状態がどれほど安定しているかを調べるため、理論モデルを使って「キックのタイミングにランダムなズレ」を加えた場合のシミュレーションが行われました。
その結果、今度は運動エネルギーEと情報エントロピーSはキックを繰り返すたびに増え続けてしまいました。
つまり、エネルギーは再びどんどん拡散し、系は熱化するようになったのです。
この結果からわかるのは、外から加える力がきちんと一定のリズムであることが、量子の波のまとまり(コヒーレンス)を維持するためにとても重要であり、ほんの少しでもそのリズムが崩れると、原子たちはたちまちバラバラに動き出してしまうということです。