しかし、量子力学のルールが支配する世界では事情が変わります。
粒子は波としての性質を持ち、波どうしは「干渉」します。
この干渉によって粒子の動きが特定の範囲にとどまり、エネルギーが思ったほど広がらないことがあります。
こうした量子のまとまり(コヒーレンス)や干渉が働くと、外からエネルギーを加えてもある時点でそれ以上吸収しなくなる現象が起こります。
これを動的局在(ダイナミカル・ローカリゼーション, DL)と呼びます。
たとえば「量子キックローター(QKR)」というモデルでは、一定間隔で外力(キック)を加え続けても、運動量の広がりが止まることが理論と実験で確かめられています。
この現象は、電子が無秩序な環境で動けなくなる「アンダーソン局在」にも似ています。
ただし、これまで詳しく分かっていたのは粒子どうしの相互作用がほとんどない場合でした。
現実の物質では粒子は互いに影響し合い、この相互作用によってコヒーレンスが乱れ、結局は熱化してしまうと長く考えられてきました。
今回の研究は、「強く相互作用する多数の原子でも、条件次第でエネルギーの広がりや乱雑さの増加を抑えられるのか」という疑問に挑みました。
量子のまとまりがどこまで保たれるのか、そして量子の秩序が古典的なカオスへと移行する境界を実験で明らかにすることを目指しました。
量子は常識に抗い、加熱は頭打ち

今回の実験は、現代物理学の中でも特に精密な研究のひとつに数えられます。
まず研究チームは、セシウム原子を約2ナノケルビンという、ほとんど絶対零度(−273 ℃)に近い温度まで冷やしました。
すると、原子たちは「ボース気体」と呼ばれる状態になり、多数の原子がまるでひとつの巨大な波のように振る舞う特徴が現れます。
さらにチームは、磁場を使って原子同士がどれくらい押し合うか(相互作用の強さ:γ)を調整できるようにし、原子を細長い一次元チューブ(前後の方向にしか動けない空間)に並べました。