研究チームは、これらの結果を受けて「量子コヒーレンスと強い相互作用の組み合わせこそが局在状態を保つためのカギになる」と結論づけています。

外部からの駆動がしっかり整っていれば秩序が保たれ、少しでも乱れると一気に秩序が壊れてしまう――この極端な“敏感さ”こそが、量子の世界ならではの特性だといえるでしょう。

熱化を制御する未来──量子技術へのヒント

熱化を制御する未来──量子技術へのヒント
熱化を制御する未来──量子技術へのヒント / Credit:川勝康弘

今回の研究が示したもっとも重要な成果は、「強く押し合う多数の原子が集まった量子の世界で、何度も規則正しく力を加えても、運動エネルギーEと情報エントロピーSが途中で増えなくなり、安定したまま保たれる」という現象を、実際の実験で確認できたという点です。

ふつうであれば、粒子に繰り返しエネルギーを与えると、動きはどんどんバラバラになり、エネルギーもまわりに広がっていきます。

これは、私たちの目に見える世界(=古典的な物理の世界)ではごく自然なこととされています。

ところが今回のように、粒子が「波」として振るまい、その波同士がきれいに重なり合う性質(コヒーレンス)が強く働く量子の世界では、状況が変わってきます。

今回の実験では、エントロピーSは最初のうちは増えますが、ある時点でピタリと増加が止まり、その後は一定のまま保たれるという現象が確認されました。

ここで大切なのは、「エントロピーが減った」のではなく、「増え続けるのをやめて、止まったままになった」という点です。

つまり、熱の吸収を完全に拒んだわけではなく、「少し乱れた状態のまま、それ以上変わらない」というバランスのとれた状態が保たれていたのです。

この特別な状態が成立するのは、量子コヒーレンスと原子同士の強い押し合い(相互作用)がちょうどよく釣り合っていたからだと考えられます。

しかし、このバランスは非常に繊細です。

たとえば、外からの力のタイミングにランダムなズレ(予測できない乱れ)を加えてみると、せっかく保たれていた状態はすぐに壊れてしまいました。