サスペンスドラマや推理小説などのフィクションの世界では、殺人の道具として「毒物」がたびたび登場します。
食物や飲み物に混入させるだけなので、自分が犯人であることを隠したいケースで多用されるのです。
ところがそれらドラマや小説の中では、事件の影響や犯人の動機に焦点が当てられ、毒物が被害者をどのように殺すのか詳しく説明されることは稀です。
そこでアメリカ・コロラド州立大学(Colorado State University)に所属する毒物学者ブラッド・ライスフェルド氏は、フィクションに登場する危険な化学物質が体内でどのように働くのか解説しています。
目次
- 『ブレイキング・バッド』に登場する毒物「リシン」
- 『007/カジノ・ロワイヤル』に登場した毒物「ジゴキシン」
- 横溝正史『八つ墓村』に登場する毒物「ストリキニーネ」
『ブレイキング・バッド』に登場する毒物「リシン」
アメリカの人気テレビドラマシリーズ『ブレイキング・バッド』では、高校の化学教師が「リシン(Ricin)」入りの砂糖を準備し、お茶に混入させることで、ある女性を殺害しています。
リシンには全く同じ名前のサプリメントなどで売られている「リシン(lysine)」が存在しますが、毒物の「リシン(Ricin)」とは全く異なります。
この2つは異なる由来と作用を持つため、別の名前を付ける方が適切と考えられますが、なぜか特に問題にはなっていないようです。
今回解説する毒物の「リシン(Ricin)」とは、世界中の公園や庭、野山で見られるトウゴマの種子から抽出されるタンパク質です。

非常に強力な毒物であり、これが細胞内に入ると、毎分1500個の速さで「リボソーム」と呼ばれる構造を不活性化していきます。
リボゾームはタンパク質を合成するという重要な役割を担っています。