「17歳で選んだ道と21歳で見る社会は違った」
中村氏のキャリアは一風変わっている。大学では医療学科を専攻していたが、社会に出る頃には違う世界への関心が芽生えていたという。
「そもそも人生は『人生ゲーム』のようなもので、思いもよらない選択肢が突然、目の前に提示される。17歳で選んだ学科と21歳で見る社会の見え方は全く違うんです。医療職か、営業か、マーケティングか、エンジニアか、自分が何に向いているかもわからない。それなら決めつけすぎず、もっと広い世界を見てみようと思ったんです」
中村氏が選んだのは、スタジオ運営からアプリ開発までを手掛けるヘルスケア企業だった。彼はここで8年間、現場業務からマーケティングまでを経験した。
「結局どれだけ楽しみ、そこに意味づけられるかが大切」という当時の価値観は、現在のIVS運営にも通じると中村氏は振り返る。
「少し手伝って」が、人生を変えた
IVSとの出会いは、意外にも「頼まれごと」から始まった。2023年、ヘルスケア企業時代の先輩であり、Headline AsiaでIVSの運営を担う今井遵氏から「ちょっと手伝ってほしい」と声がかかる。転職を考えていたタイミングもあり、興味半分で手伝いはじめたのがすべての始まりだった。
「性格的に、気になったことを放っておけないんです。チケット販売の予測から、ウェブ制作サポート、プレスリリースまで、自分が力になれそうなことを全部手伝っていたら、いつの間にか“Growth”というポジションができていた(笑)」
もともと「IVSなんて雲の上の存在」と感じていた中村氏にとって、「自分の力が必要とされる」こと自体が驚きだったという。運営チームの熱意に引っ張られ、気づけば受付の全責任も担うまでに。そこで得たのは、スキルだけでなく、価値観そのものの変化だった。
スタートアップ界の“お祭り”はこうして拡張した

IVS2022 NAHA時の約2000人規模から、2023年のIVS2023 KYOTOでは1万人超へと来場者数を伸ばしたIVS。中村氏が関わり始めたこの3年間で、イベントは大きく様変わりした。
「起業家と投資家のための場から、スタートアップに関わるあらゆる人のための“マーケット”に変わったと感じています」
IVS2023 KYOTOでは、招待制からオープン制へ移行したばかりで、参加者には戸惑いも見られた。「誰と会えばいいのか」「どう動けばいいのか」といった声が多かったという。IVS2024 KYOTOでは参加人数のさらなる増加に伴い、「会うべき人に会えない」「話すきっかけが難しい」という声も見られた。
だが、そこからの学びを踏まえ、IVS2025では「テーマゾーン制」や「Central Park」といった導線を設計し直し、効率よく“会いたい人に会える”構造を整えた。
その結果、IVSは「リード獲得」「採用」「資金調達」など、3日間でビジネスのあらゆる面で実利が得られる“加速装置”となった。