共同編集のためのURL共有が生むバイラルな「PLG」

 Figmaのもう一つの強みは、そのプロダクト主導の成長(Product-Led Growth、 PLG)モデルと、それを支える熱狂的なユーザーコミュニティにある。Figmaの月間アクティブユーザー(MAU)は1300万人を超えるが、そのうち3分の2はデザイナー以外の職種(プロダクトマネージャー、開発者、マーケターなど)だ。

 デザイナーがFigmaを使い始めると、共同作業のために開発者やPMをファイルに招待し、自然と組織内で利用が広がっていく。このバイラルな性質こそが、Figmaの効率的な顧客獲得の原動力となっている。

 個人のデザイナーが無料の「Starter」プランを使い始め、やがてチームが「Professional」プランにアップグレードし、最終的には組織全体が「Enterprise」プランで標準化する理想的な流れができているわけだ。実際、新規のエンタープライズ顧客の約70%は、元々は小規模チーム向けのプロフェッショナルプランのユーザーだった。

Figmaがデザインツールを超えた理由:製品開発のOSになるまでの全戦略の画像5
(画像=1000億円以上の規模にして高成長が続く)

 バイラル戦略の巧みさは、価格体系の変更にも表れている。2025年3月、従来の製品中心(Figma Designのシート、FigJamのシートを個別に購入)の料金設定から、ペルソナ中心(デザイナー向けの「Full」シート、エンジニア向けの「Dev」シート、PM向けの「Collab」シートなどを購入)へと移行した。

 それまで開発者やPMがFigmaを利用するには、過剰なフル機能のデザイナー向けシートを購入する必要があり、これが組織内でのシート数拡大の障壁となっていた。役割に特化した手頃な価格のプランを設けることで、企業は数十人規模の開発者やPMに有料アクセスを提供することへの抵抗が格段に下がった。結果として、既存アカウント内の有料シート数の劇的な増加につながった。

 このプラットフォーム戦略の強力さは、顧客単価の向上を示すARR(年間経常収益)のコホート分析を見れば一目瞭然である。一度Figmaを導入した顧客は、年々利用額を増やし続けている。

 例えば、2020年に顧客となった層のARRは、最初の年の4.7倍にまで成長している。組織内で利用するチームや人数が増えるだけでなく、より多機能な上位プランへのアップグレードや、新しいプロダクトの追加購入が進んでいることを示している。顧客の成功と共にFigmaの収益も成長する、理想的な関係が構築されているのだ。