実際、これまでの研究によって人間だけでなく、果物を食べるコウモリやスズメの仲間でも、ビタミンCを作る遺伝子が失われていることがわかっています。

これらの動物も、寄生虫と戦う中で似たような進化をしたのかもしれません。

特に人間の祖先が暮らしたアフリカやアジアでは、住血吸虫などの寄生虫症が広がっていたと考えられます。

そんな環境では、ビタミンCを自分で作らない体質が、生き残るために有利だった可能性もあるのです。

またこの研究は、「栄養が足りない=悪いこと」という常識に対して、新しい考え方を投げかけています。

たしかにビタミンCが不足すると、壊血病などの病気を引き起こすため、健康には良くありません。

でも自然界では、なにかを得る代わりに別のものを失う「トレードオフ」があちこちで起きています。

病原体と戦うためには、ときに“あえて栄養を与えない”という作戦が役に立つこともあるのです。

たとえば、私たちの体は細菌に感染すると、鉄分を肝臓に隠して細菌の増殖をおさえる「栄養免疫」という仕組みを使います。

同じように、進化の中でビタミンCをあえて体内で作らないようにしたことが、寄生虫に対する「兵糧攻め」になっていたのかもしれません。

極端に言えば、人類の祖先は「ビタミンCを作らない」という大胆な方法で、寄生虫という泥棒から自分を守ったとも考えられるのです。

この発見は、私たちの健康や医療にも新しい可能性をもたらします。

今も世界では、何億人もの人々が寄生虫の病気で苦しんでいます。

ビタミンCが寄生虫の繁殖に欠かせないとわかったことで、新しい治療法が生まれるかもしれません。

たとえば、特定の寄生虫症ではビタミンCを取りすぎないようにしたり、寄生虫がビタミンCを利用する仕組み(たとえば卵をつくるための酵素)をねらって薬を作ったりすることも考えられます。

ただしこれは、あくまでマウスでの研究結果であり、人間にそのまま当てはまるとは限りません。