解析によって、ビタミンCが卵に栄養を与える「卵黄細胞」を成熟させる合図になっていることがわかりました。
ふつう、メスの寄生虫はオスとペアになると、生殖器が発達して卵を産み始めますが、ビタミンCが足りないと、卵黄細胞がうまく育たず、卵も殻がうまくできなかったり、小さくなったりする異常が出ます。
つまり、ビタミンCは寄生虫の「繁殖スイッチ」を入れる鍵のような存在だったのです。
さらに詳しく調べると、このスイッチの仕組みには、エピジェネティクスと呼ばれる「遺伝子の働きのオン・オフを切り替えるしくみ」が関係していました。
寄生虫の中ではKDM6という酵素が働いていて、これは「ヒストンのメチル化」というブレーキを外す役割を持っています。
ビタミンCがあるとこの酵素が活性化し、卵を作るために必要な遺伝子たちが一斉に動き出すのです。
逆にビタミンCがないと、ブレーキがかかったままになり、卵をうまく作ることができません。
ここで大切なのは、ビタミンCがないからといって、寄生虫が死んでしまうわけではないという点です。
実際に、体内にいる寄生虫の数や大きさには変化がなく、生きていることが確認されています。
ただし、繁殖だけが強く抑えられていたのです。
寄生虫は血管の中を泳ぎ回ってはいますが、卵が産めなければ大きな病気にはつながりません。
これはまるで、宿主が栄養をあえて渡さず、寄生虫を「飼い殺し」にしているような仕組みだと言えるでしょう。
もちろん、この効果は必殺技のように「根治」ではありませんが、自分の生き残りの確率を高め、他の仲間への感染も防げるという点では、非常にうまいやり方だと考えられます。
弱点が“盾”になる進化の逆転劇

本研究は、「ビタミンCを作れない」という人間の弱点が、じつは感染症に対するひそかな強みだった可能性を、マウスの実験で示したものです。
進化生物学では長年、ビタミンCを体内で作れなくなった理由が謎とされてきましたが、「寄生虫から体を守るため」という新しい説明が浮かび上がったのです。