世界では毎年2000万人の未熟児が生まれ、うち400万人が亡くなっています。主な理由は低体温症です。未熟児は脂肪が少なく、自分の体温を維持できないのです。
一方で先進国では産婦人科に保育器があるので、低体温症で亡くなる赤ちゃんはほとんどいません。この保育器は2万ドル(300万円)もします。
そこで米国スタンフォード大学の研究チームは、「この社会問題を解決するために、現在の保育器(2万ドル)のコストを1/100にしよう」と考えました。
でもその解決策で本当にいいのでしょうか?
そこで、チームはネパールとインドで、現場で何が起こっているかを観察しました。わかったことがいくつかありました。
まず、新生児の8割は自宅で産まれています。先進国のように病院では生まれないので、そもそも保育器は使えません。
そして、自宅には電気が通っていません。保育器のコストを1/100にしたところで、そもそも電気がないので使えません。
赤ちゃんが生まれる状況を観察したところ、お母さんたちは赤ちゃんが生まれると火鉢の近くに置いたり、湯たんぽで温める習慣がありました。低体温症に対する生活の知恵ですね。
こうした事は、現場を見ない限り、わかりませんよね。
青島刑事ではありませんが、「事件は現場で起こっているんだ!」です。
現場で問題を理解した開発チームは、寝袋のような保育器”Embrace Infant Warmer”を開発しました。
寝袋には保温ジェルをセットできて、体温と同じ一定温度を6時間保てます。 予備の保温ジェルをお湯で温めて交換すれば、ずっと一定温度を維持できます。 当然、電気も不要です。
この新しい保育器は、実際に現場を観察し、お母さんや医療関係者にインタビューして生まれました。
これは単なる顧客インタビューではありません。
「エスノグラフィー(Ethnography)」という方法です。