1980年代、シャワーが一般家庭に普及して、「朝シャン」が社会現象になりました。

この頃、花王の若い製品担当者が、シャンプーへの要望調査レポートを見ていました。

すると500件の要望の中で3件だけ「髪を軽くしたい」という意見があったのです。

「耳慣れない言葉だなぁ」と考えた担当者が、花王の研究者に聞くと「確かに、皮脂や整髪料の影響で、本当に髪が重くなります」という答えが返ってきました。

「髪を軽くするシャンプーがあれば売れる」と考えた担当者は、

「軽〜い仕上がり」 「毎朝洗っても、髪は傷まず、軽くなります」

とアピールした商品「ピュアシャンプー」を1983年に発売。大ヒットしました。

この担当者は、後に花王の社長になった尾崎元規さんです。

尾崎さんは日本経済新聞の取材でこう語っています。

「消費者から新たな兆候が出て、やがて大きな流れになります。その芽生えの部分をいち早くとらえ、具現化できればうまくいく。マーケターにはかすかな変化に気付く目利きが求められます」

尾崎さんはこの短い言葉の中で、マーケターに求められる洞察力の本質を見事に語っています。

市場が大きく変化する兆候は、最初は「違和感がある少数意見」として現れます。だから新市場を立ち上げるために対応すべきは「多数派の意見」ではなく、「違和感がある少数意見」なのです。

お客に何が欲しいかを語ってもらうのではなく、お客を観察して何が欲しいかを考えることが必要です。

かのジョブズも、消費者を観察しています。

ジョブズがアップルに戻った頃のこと。

ジョブズは本社があるパルアルトにあるアップルストアの茂みから、店内の様子を観察して、ユーザーがシンプルで直感的なユーザー体験を求めていることを直観的に理解して、その後のiPodやiPhoneを開発しました。

ジョブズも観察していたのですね。

そこで「観察」の方法論を深掘りして考えてみましょう。

【方法2】エスノグラフィー