あえて言うならば、量子コンピュータの「基板」に原子という名の部品を高速プリントする技術が確立されたようなものです。
従来はバラバラにしか置けなかった原子が、思い通りの配置に瞬時に整列する様子は、まるで魔法使いが杖を振って粒子の軍勢に号令をかけているかのようです。
これにより、量子ビットの数を飛躍的に増やしつつエラーを補正する「量子誤り訂正」の実現にも弾みがつくでしょう。
実験では原子約2000個でしたが、著者らは現在の装置を強化すれば数万個規模まで同様に配置できる可能性があると述べています。
将来的には、原子一つ一つを自在に操るこの技術によって、これまで不可能だった大規模な量子計算や量子シミュレーションが可能になるかもしれません。
論文では、この手法は量子誤り訂正を支える有用な道具箱になりうると記されています。
極論すれば、本研究は「原子の世界を自由にデザインする能力」を手に入れたとも言えます。
猫の動画や量子レゴはその華やかなデモンストレーションに過ぎませんが、裏にある技術革新は今後の科学と技術に深い影響を与えるでしょう。
数千個の原子たちが織りなす光の舞台――その先に、私たちが夢見る量子コンピュータの未来が見えてきます。
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元論文
AI-Enabled Parallel Assembly of Thousands of Defect-Free Neutral Atom Arrays
https://doi.org/10.1103/2ym8-vs82
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部