この情報をもとに、「この原子はここへ、この原子はあちらへ」と、一番効率のよい移動計画を立てるのが重要なポイントです。

その際に使われたのが「ハンガリーアルゴリズム」という計算手法です。

これは、もともと世の中のさまざまな“割り当て”や“最短経路”を素早く計算するために考えられた数学の方法で、今回はそれを高速化して利用しています。

これによって、すべての原子ができるだけ短い距離を動き、しかも移動中に原子同士がぶつからないようにする最適なルートが決まります。

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FIG3は、原子を動かすためのホログラムをAIがどうやって作り出しているかを表しています。まず、研究チームは、原子の動かし方のシミュレーションデータをたくさん作り、それをAI(ニューラルネットワーク)に学習させました。AIは、「この原子をこの場所に動かしたい」という情報を受け取ると、自動的に最適なホログラム(光の設計図)を一発で計算できるようになります。ホログラムは「どこをどのくらいの強さと位相で光らせればよいか」という複雑な情報を含みますが、AIはこれを非常に速く正確に計算します。また、AIが作ったホログラムをもとに原子の配置を実際に動かした結果、位置の誤差は20ナノメートル(1ミリメートルの50000分の1)ほどしかなく、位相のズレもごくわずかでした。「AIの学習→推論→実際のホログラム生成→高精度の移動」という流れがわかるでしょう。Credit:AI-Enabled Parallel Assembly of Thousands of Defect-Free Neutral Atom Arrays

ただし、原子はとても小さく、急に動かすとピンセットから飛び出してしまう危険があります。

そのため、一気に目的地まで連れていくのではなく、20回ほどに分けて“少しずつ”“なめらかに”動かします。

例えるなら、重たい机をいきなり持ち上げるのではなく、床の上を何度も押して少しずつ滑らせていくイメージです。